今年の中秋の名月はとてもクリアで美しかった。といっても普段それほど月を見ているわけではないので、気のせいかと思った。先日ラジオを聴いていると、歌手のジュディ・オングさんが「今年の中秋の名月はきれいだった」と言われたので、やはりいつもと違っていたようだ。なぜだろう。
中秋の名月以降も夜空を見上げると、ずっと月はきれいだった。
考えてみたらコロナ禍で人や物の動きが少なくなったから、空気が澄んでいたのでしょう。
今年の名月は温かいお茶と月見団子ならぬ大福を用意して、窓辺でぼんやり眺めた。静かな月の光に、心の中に溜まっていたごちゃごちゃしたものが浄められていくようだった。
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数十年前、音楽好きの知人が美しい歌声と少し元気の出るようなメロディの音楽ビデオを見せてくれた。タイトルは『ムーンライト・シャドウ』。誰の曲かと尋ねると、マイク・オールドフィールドと教えてくれた。
以来、ときどき耳によみがえり、聴きたくなった。懐かしいような切ないような、でも少し前を向ける気持ちになる。
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吉本ばななさんの『キッチン』を読んだのは、発刊されて何年も経ってから。発売当初、あまりにも話題になっていたのでかえって引いてしまい、読まなかった。
ところが何年経っても人気は衰えず、それどころか海外でも評判となり、あちらこちらの書店で文庫版が平積みになっていた。ようやく読んでみると、予想していた流行りもののイメージと違い、不思議な物語だった。『キッチン』を読んだおかげで、わが家のキッチンは片付いてちょっと心地よい場所に変わった(自分比)。物語の主人公の好きな場所がキッチンだったから。
同時収録されていたのは短編小説の『ムーンライト・シャドウ』。これも不思議な物語で、大切な人を亡くした人たちが、特別な日に、川を境にして体験した出来事。切ないけれど、少し前を向ける物語が心に静かに残った。
あとがきによると短編『ムーンライト・シャドウ』は、同名の曲、マイク・オールドフィールドの『ムーンライト・シャドウ』にインスパイアされて書かれたという。
ああ、吉本ばななさんもこの曲が好きだったんだ、と嬉しくなった。
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オステオパシーを知ったのは『いのちの輝き』(ロバート・C.フルフォード、ジーン・ストーン著/翔泳社)を読んでから。本屋さんで平積みにされていた帯に、吉本ばななさんの名があったから手に取った。読んでみるととてもすばらしい本で、以来、大好きな本の一冊になった。
心理学者の河合隼雄さんとの対談本の中で、吉本ばななさんは好きな本三冊のうちの一冊として『いのちの輝き』を挙げられていた。
オステオパシーを知った当時は情報が少なくて、実際に施術を受けることができたのは何年も経ってから。以来、オステオパシーには大いに助けられ続けてきた。交通事故の後遺症、捻挫、崖から落ちた打撲。先日は階段から落ちての打撲。このときは数日間動けなかったけれど、治療していただいたおかげでスムーズに回復できた。病気についてはときどき軽い風邪をひく程度で済んでいるのは、オステオパシーで整えていただいているおかげと思う。他にも、意識していないところでも助けられていると思う。
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『キッチン』を読んでから20年以上たち、その間吉本ばななさんの本は何冊も読んで、何度も救われてきた。悲しいことがあったときは、部屋の隅に座り一晩中、吉本ばななさんの本を読んでいた。
それでもおりにふれ、ふと心に浮かぶのは『ムーンライト・シャドウ』だ。
・泰・
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