まだやわらかい草の上を、そっと雨が覆っている。
ときおりふと胸に浮かぶ、雨の詩がある。
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巷に雨の降るごとく
わが心にも涙降る。
かくも心ににじみ入る
このかなしみは何やらん?
ヴェルレーヌ(堀口大學訳)
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しっとりとして情緒的な雰囲気が、日本人に好まれているという。
力強さなどない。静かだから、弱った心にも深く染み入ってくる。
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たこ八郎という、ちょっととぼけた雰囲気の芸人さんがいた。プロボクサーだったけれど、頭部へのダメージが重なり引退して芸人になった。たどたどしいしゃべり方だった。
テレビ番組「笑っていいとも!」に初めて登場したときには、「本物のバカをテレビに出している」と、クレームがたくさん着たという。
ある日、たこさんが何かの拍子に「巷に雨の降るごとく・・・」と一節をそらんじた。すると、以来クレームはぴたりと止まったという。
たこさんはある夏、酔っぱらって海水浴をした際に亡くなった。ニュースを聞いた、当時筆者のアルバイト先にいた茶髪の女の子は、たこちゃんが死んじゃった~と、涙を浮かべていた。
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今も、過去も、たぶん未来にも、地球のどこかで雨の詩をそらんじている人がいるだろう。
・泰・
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