地震や災害があると、よく思い出す顔がある。中学の同級生だったD君。
校内暴力がニュースになっていた数十年前、当時通っていた中学校は荒れた学校として界隈で知られていた。
古かった木造校舎がちょうど新しく建て替えられ、途中から白い鉄筋の校舎に替わった。が、見る間に壁は汚され、ガラスにヒビが入り、トイレは壊された。
毎年、卒業式には「お礼参り」があった。日ごろ厳しく指導をしていた先生は式の後、一部の卒業生から今までのお返しとばかりにボコボコにされ、翌日、体のあちこちにアザを作り包帯をぐるぐる巻いて出勤してきた。あるいはしばらく姿が見えないと思っていたら白い三角巾で腕を吊ったり松葉杖をついたりして現れた。今なら警察沙汰である。
年に数回、7~8人くらいの一団が戦闘服なるものでキメていた。いつにも増して長くひざ下まである学ランの背中に昇り龍の刺繍、ひるがえして歩けば内側は鮮やかな朱色。ズボンはダボダボ、リーゼントの額には白くて長いハチマキ。近くの学校と決闘があると噂された。
そんな一団の中にD君はいた。昇り龍の長い学ランは、細身で白い肌に繊細な顔立ちの彼にサラリと似合っていた。
中学3年のときD君と同じクラスになった。服装などで先生から注意されてやり合う姿をときどき見たけれど、普段は物静かでクラスメイトに手を挙げたり声を荒立てたりすることはなかった。
あるとき席替えで背後の席にD君、その隣にいたずらっぽい目をしたオールバックのM君が座った。
授業中、ふいにM君がD君にたずねた。
「家にいるとき、大きな地震がきたらどうする?」
背中で聞いていた私は心の中でキリリと応えた。「(机の下に隠れて、それから避難袋とお財布と懐中電灯持って逃げる)」。マニュアルどおり完ペキ!
D君はやわらかい声でサラリと言った。
「飼っている犬のクサリを外す。つながれたままじゃ逃げられないから」
「オレもそうだよ、かわいそうだもんな」、M君はちょっとうれしそうに応えた。
ガーン・・・・・・我が家にも犬がいた。柵のある庭に放し飼いだったとはいえ、まったく思いは及んでいなかった。ごめん、タケ(飼っていた犬の名)。
二十歳くらいのとき、偶然、駅前で向こうからD君が歩いて来るのを見かけた。中学卒業以来だ。
「D君」
声をかけると、相変わらず白い肌で、はにかんだように少し微笑んで静かにすれちがって行った。
地震や豪雨のニュースを聞くと、彼の顔が浮かぶ。自分は災害にあったとき立場の弱い者に思いを馳せられるようになっただろうか。
地元を離れてしまったし、たぶんもう一生会うことはないだろうけれど、はにかんだような微笑みを思い出すと、どうか幸せでありますようにと願わずにいられない。
・泰・
ーーーエドガー・ケイシーのリーディングよりーーー
人生の原理とは、「あなたたちが、もっとも小さい兄弟に為すことは、すなわち、あなたの造り主に為すことに等しい」、これである。(3976-21)
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